ロイヤル・ブリタニアン銀蛇自警団 “蝋人形の館”

浅黒い肌に甲冑を着込んだ碧眼の男は身じろぎもせず王の言葉を待ち続けた。

「つまり、君はブラックロックの認定技術者試験をこの者に委託すると言うのかね?」

師スーテック手ずからだという紹介状から顔を上げたブラックソーン王は、怪訝そうに眉根を寄せながらやや低い声で傍らの男に問いかけた。サー・ジョフリーは思いの外穏やかな王の声に、大げさなくらい長い安堵のため息をつくと、いそいそと王の前に真新しい羊皮紙と、インク壺と、心なしか黒ずんで見える封蝋を並べて置いた。

「あいにく一般技術者は皆多忙でして……。あるいはそのような大役はとても務まらないと引き受けてくれないのです。」

王はやや厳しい面持ちで広げられたばかりの羊皮紙の上に両の手を組み、サー・ジョフリーを上目使いに見つめながら口を開いた。

「サー・ジョフリー。認定技術者、および技術者の派遣による市民の教育と最新の知識、技術の普及はブラックロック法の要だ。それが機能していないと言うのなら、我々は速やかに原因の究明に務め、これを是正しなければならない。」

サー・ジョフリーは再び背筋を伸ばして王の前に屹立すると、額に大粒の汗を浮かべながら答えた。

「おっしゃる通りでございます。国王陛下。認定技術者の数は現時点では圧倒的に不足しております。特例としまして今回のように名誉顧問による推薦を受けた技術者を、暫定的に起用することも法改正の際に盛り込まれてはいかがかと思います。ただ……。」

ブラックソーン王は少し首をかしげるように動かして、先を促した。サー・ジョフリーは少しためらった後に続けた。

「このたび開港したミノック、とりわけユーにクリーチャーが大量に発生するという異常事態が発生しております。まずは海路からの侵入を疑い、両港の警備を強化しましたが、手薄になったブリテインとスカラブレイでも異変が起きております。」

「異変?どのような異変かね?」

王の言葉にサー・ジョフリーは観念したように一瞬宙を仰いで目を閉じると、絞り出すような声で答えた。

「“rift” *注1 が現れたのでございます。陛下。しかもそれは移動するのです。」

かつてアビスの徳の神殿に常駐していたガーゴイル技術者が何者かによって拉致された後、自在に“rift”を出現させる技術を用いて今はボイドの亜空間の塵と消えたブラックロック関連施設を脱出していたことを、ブラックソーン王は思い出していた。そう、その施設にはクリーンルームさながらにブラックロック結晶体が整然と並べられ、ワームたちが飼育されているように見えたという。いや、実際には逆かも知れないのだ。ワームは褐虫藻に似た生態を持つ生物であり、ブラックロック結晶体がワームから栄養を摂取して造礁サンゴのように成長していたのだとしたら……?

ブラックソーン王はおもむろにペンを取り、羊皮紙の上に走らせた。用心しなさい。そう言いながら印璽が刻印されたばかりの封筒を差し出そうとした手を止めて、王は不意に尋ねた。

「そういえば、ユーに収監された女スリの名は何と言ったかな?」

受け取ろうと差し出した手を宙に泳がせたままサー・ジョフリーは答えた。

「“Vanessa Baily(バネッサ・ベイリー)”でございます。陛下。」

「デルシアの出身かね?」

サー・ジョブリーは不思議そうに王を見た。王は微笑んで答えた。

「デルシアには“Baily Inn(ベイリー・イン)”という名の宿屋があったが、あまりに粗末なものだから“Barely Inn(ベアリー・イン)”と揶揄され、いつしかその名が取って代わったと言われている。」

少し休むとしよう。そう言い残して退出した王のマホガニー製のデスクの上には、師スーテックが紹介したという件の男の名が記された羊皮紙が残されていた。その名を見つめながらサー・ジョフリーは新たな胸騒ぎを覚えていた。

そこには“William Baily(ウィリアム・ベイリー)”と書かれていた。

*注1 rift とはエーテルがエセリアル虚空間より流れ込む際にブラックロックに干渉されることによって生じる空間の歪み。 crown_line_1
日時:3月19日(木)夜10時より開始
場所:ミノック銀行前(六分儀座標: 93o 21'N, 83o 40'E)
※二ジェルムEMホールよりゲート設置予定

毎月第三木曜日に行われていた平日の定期イベント銀蛇自警団リバイバルです。※以降の開催頻度は未定です。
本イベントは階級を定め、貢献度に応じて定期的に団員の表彰を行うポイント制のイベントです。
ミッションを受け、自らの足で調査、情報収集を行い、レポートにまとめて提出します。
イベントチャンネルVSS(#なし) にお入りください。
予期せぬ出来事が発生するかも知れません!貴重品はなるべく持ち込まないよう、お願いします。
以下に該当の場合、あるいはEMが問題ありと判断した場合はコールのうえ、
    イベント中止の措置を取らせていただく場合があります。
   - イベント進行の妨害、かく乱行為。
   - EM、あるいはほかのプレーヤーに対する侮辱的発言、またはそれに準ずる行為。
皆さまのイベントです。マナーを守って楽しく参加しましょう!

素材はDotsDominoさんからお借りしました。ありがとうございます!