掃除人Xとロイヤルガード特別部隊それってロイヤル・ブリタニアン銀蛇自警団活動報告書 – Vol. 3

ブリタニアの市民諸君!

この場をお借りし、国王陛下とサージョフリーの命を受けてベスパーで発生した事件に果敢に挑んでくれた諸君に敬意を表するとともに、心よりの感謝を述べたい。本当にありがとう!
現在、ガーゴイルのXeninlorが重要参考人としてブリテインに出頭しており、証言の裏付けを急いでいるところだ。よほどのことがない限り、これまで明らかになった事実が覆されることはないと思われるが、我々はどんな時もあらゆる事象について注意深く検証し、どんなに小さな可能性も排除することがあってはならない。
そのようなわけで本日は諸君から寄せられた貴重なレポートを紹介しながら、あらためて我々ならではの切り口の仮説を打ち立てることを目標にしてみようと思う。まずは淡々とした筆致に冷静沈着な分析が光るHiroaki団員のレポートを読んで一日の流れを振り返ってみることにしよう。

Hiroaki

◆ アルマートの薬物
さて、Hiroaki団員のレポートにもあったようにベスパーでは違法と思われる薬物が蔓延していたが、その正体はSilver Serpentの毒を主成分としているということ以外ははっきりせず、被害者にガーゴイルがいないという点も謎を深めていた。事件が急展開を迎えるのは嫌疑を掛けられていたベスパーの秘薬屋、The Magician's Friendの主人が亡くなってからである。なんと、遺品の中から魔法使いGarok Al-Mat(ガーロク・アルマート)の遺書が見つかったのだ!
Garok Al-Mat(ガーロク・アルマート)はその昔ブリタニア租税協会に申告漏れを指摘されて仕事を失って以来、誇大妄想や頭の中の声に悩まされるようになったという失意の魔法使いである。彼については賢者アラナーによる著書、“アラナーの不可思議で驚くべきものたち”に記述があるが、それによれば彼はSilver Serpentの毒を他と組み合わせて予言を行うための秘薬の調合を研究していたという。彼の遺書には秘薬の成分表と思しきものが添付されていたが、奇妙なことに肝心の部分がばっさりと切り取られていたのだ。
果たしてアルマートは生前にその秘薬の調合に成功していたのだろうか?未完成だったのだろうか?あるいは意図したものとは違うものができてしまったのだろうか?あり得ることだ。当初の目標に到達できなかったとしても、劣化版の完成くらいにはこぎつけていたかも知れない。または多くの発明品がそうであるように、思いもかけない副作用を生み出していたのかも知れない。この項目ではそんな可能性を示唆する、pelu団員とMolook団員の手による深い洞察力を感じるレポート2冊を続けてお読みいただこう。

pelu

molook

薬物の正体については結論の項目に譲り、次に進もう。

◆ 秘薬屋の主人
それにしても、諸君。妙だとは思わないか?秘薬屋の主人の遺品からは土地の権利書が持ち去られていた。ならばなぜ、犯人はアルマートの遺書もまるごと持ち去らなかったのだろうか?なぜ、わざわざ成分表の部分だけを切り取って持ち去ったのだろうか?何のために?アルマートの遺書に世間の耳目を集めるためではないだろうか。
いや、こうも考えられる。秘薬屋の主人は篤志家で、彼に借金の申し込みをする者も多かったと言う。成分表は借金の担保として主人の元に持ち込まれた時、すでに切り取られていたのではないだろうか。アルマートの遺書ならばある程度の骨董的な価値はあるのだろう。秘薬の成分表を故意に手元に残したとなると、その人物はその効用を知っているか、少なくとも秘薬の調合技術を持つ者である可能性が高い。
さらに、もう一つ仮説を立ててみよう。土地の権利書と秘薬の成分表は主人の死後持ち去られたのではない。主人の生前、主人があえてその人物にその部分だけを切り取って差し出したのだ。
- 真っ先に疑われる立場の者が、自ら生活基盤周辺でそのような自分の足元に火を放つような真似をするだろうか?(Jimmy団員)

その通りだ。自分だけではなく、守るべき家族がいた秘薬屋の主人が何らかの脅しに屈し、生前土地の権利書と成分表を差し出したことは十分に考えられる。この時主人はやがてこの事件に捜査のメスが入ることを予見し、その人物にとって有用な成分表だけを切り取って渡し、残りの部分をあえて残したのではないだろうか。
一方、土地の権利書はどうだろうか?誰にとってもその価値は同じだろうか?そこに何もなければそうだろう。しかし、あの鉱山には巨大な蜂と何らかの生物との交配種と思しきクリーチャーが生息する巣穴への入口が確かにあったのであり、それだけでなく、もっと秘められた何かが、まだ我々の目に触れたことのない重大な秘密が眠っているとしたら?秘薬屋の主人はその秘密を握っていたが故に、口封じのため殺されたのだとしたら?
そんな大胆な予測を展開したのがJimmy団員である。もしそれが事実であったなら何と恐ろしいことだろう!

Jimmy

アルマートはSilver Serpentの毒を巨大な蜂の花粉だけではなく、Spider's Silkとも調合を試みていた。
- 上記により、何らかの方法で近縁種ではなく、蜘蛛と交配することで、巨大な蜂の花粉とSpider's Silkの両方の特質をもった原料の生成を試みたのではないだろうか<中略>生物の交配となると、生物学に対しての深い造詣が必要となることから、薬学のNatashaの父親だけでは、実現は困難である(Hiroaki団員)

実に論理的だ。よって、ここではあらゆる可能性を加味し、犯人を複数犯、ないし組織とし、秘薬屋の主人は何らかの形で加担していたものの、仲間とトラブルを起こして殺されたという仮説を立てた上で、更なる検証を重ねてみよう。

◆ 霧のべスパー
- その夢をみると、どうしても蜂蜜が食べたくなる(molook団員)
- 霧のべスパー、その未来が私には亡霊の如くおぼろげに感じられるのは確かだ。(pelu団員)

ペスパーは養蜂の街である。そしてガーゴイルたちにSilver Serpentの毒を投与し、死ぬまで使役させていたという暗く、悲しい歴史を持つ街でもある。つまり、今回の一連の事件はコブトス至近のべスパーの地で起こるべくして起こったのであり、そこでなくてはならない理由が何かあったのではないだろうか。
こうは考えられないだろうか。あの交配種と見られるクリーチャーには餌として豊富な蜂蜜が必要なのであり、また負の歴史から人々の足が遠のくコブトス界隈は犯人らにとってまたとない好立地だったのだと。 きっと、べスパーで数多くの犠牲者を出す前に、この事件は深く、静かに進行していたのだろう。悲しいかな、我々は自分たちにとって都合の悪いもの、感情を不必要に揺さぶるものから遠ざかる習性があることは否めないことだ。
ではなぜ、秘密裏に進められていたはずの薬物が広く世に流布してしまったのだろうか?
この最後の謎に迫ってみよう。

◆ 番外編: アラナーの夢の跡
「なんだい、シリア。君だったのか。」

詰め所に入って来た人影に一瞬不意を突かれたように掃除人Xは声を上げた。

ごきげんよう、サー。べスパーで事件だと聞いて血が騒いだ。しかもあながた関わっていると言うじゃないか。お元気そうで何よりだ。……それにしても、その暑苦しいシュラウドをいい加減脱いだらどうなんだい? 」

シュラウドの奥で掃除人Xの顔が一瞬苦し気に歪んだ気がしたが、シリアは気づかぬそぶりで続けた。

「ちょっと気になることがあって来てみた。賢者アラナーはフェローシップによって殺されたことは知っているだろう?」

もちろんだよ、というふうに掃除人Xは先を促した。

「その昔アラナーは本土での腐敗に嫌気が差して、当時台頭していたフェローシップの哲学を学ぼうとニューマジンシアに移住した。弟子アントンを派遣し、情報を収集させた彼はやがてフェローシップの本当の姿を知ることになった。……そして、殺された。」

掃除人Xは少し考えてから口を開いた。

「君は今回の事件にフェローシップの残党が関わっていると思うのかい?」

シリアは残念そうに首を振った。

「可能性はあるが、確証はない。ただ、アラナーはアルマートが研究していた薬物について、何かを知っていたか、あるいは完成させていたような気がするんだ。」

掃除人Xはシュラウドの奥で疑わしそうに眉をひそめた。

「いやいや、わかってるよ! あくまでその、なんとなく女のカンというか、男が何かを隠しているとときの空気というか、そんなものを感じただけさ。だって妙だと思わないかい?アラナーは“アラナーの不可思議で驚くべきものたち”で唯一アルマートの名前を出しているが、順当に考えればただのメイジだって良かったわけじゃないか。まあ、アルマートはアバタールと面識のあるメイジだし、名前を出す意味はあったのかもしれないがね。」

君が何を言いたいのかさっぱりわからんよ、はっきり言いたまえ、いやいや、女の口からそんなことを言わせるつもりかい?しばしの押し問答の末観念したようにシリアは言った。

「だってSilver Serpentの毒の効果は筋力増強と多幸感なんだよ。そこから予言の薬を作ろうだなんて発想がおかしいと思わないかい?アラナーは知ってたんだよ。アルマートが何を作ろうとしていたのかを。自分にとばっちりが来るのがいやだったからわざわざアルマートの名前を出した。アラナーもアルマートもそれを予言の薬ってことにしていたけど、実際は違う。」

「つまり、その、君はそれを夜のアレだったと言いたいのかい?」

「そうだよ。だいたい予言のための秘薬だなんてそんなもの誰が欲しがるんだい?」

シリアはややムキになった後、ああ、ここで大笑いされても仕方ないなと覚悟を決めて身構えた。なぜ自分はこんなくだらない思い付きを言うためだけにジェロームからわざわざブリテインくんだりまでやって来たのだろう。後悔の念がじわじわと頭をもたげ始めた。しかし、向かい合ったシュラウド姿の男の反応は予想外のものだった。

「シリア。それだよ。私はどうしてもわからなかったのだ。なぜ、べスパーの街に薬物が蔓延し、結果的に秘薬屋の主人が仲間割れを起こしたのかが。そしてXeninlorが最後に娘さんに知らせないでやってくれと言った言葉の真意が。」

きょとんとするシリアを尻目に掃除人は続けた。

「秘薬屋の主人は自らそれを多用していたのだろう。被害者にガーゴイルがいなかったのは偶然なのか、最終的に主人は殺されたのか、過剰摂取によって自ら命を落としたのかはまだ検証の余地があろうが、図らずもそれがべスパーに蔓延してしまったのは秘薬屋の主人がそれを横流ししていた可能性が高いのではないのかな。つまり、その、秘薬屋の主人には守らなくてはならない家庭があったからね。噂を聞きつけた街の人々に弱みを握られ、不承不承口止め料としてそれを差し出したのだろう。」

そう言うと掃除人は机の下から最後のレポートをそっと取り出した。

alianrhod

シリアはレポートから顔を上げると、何の気はなしにそういえば2階には寝室があったことに思い至り、慌てて身支度を始めた。

「もう帰るのかい?」

掃除人Xののん気な声を背中で聞いて、この男、何もわかっちゃいないとシリアは小さく舌打ちした。ヒラヒラと手を振ると、夜のとばりが降り始めたブリテインの街へ勢いよく飛び出した。

小さくなって行くシリアの後ろ姿を見送りながら、掃除人Xは心の中ですでに別の景色を見ていた。

それでは諸君! 次回のミッションでまた、会おう!